近ごろ、自分が長年続けている数少ない趣味が「手紙を書くこと」だと気がつきました。でも見渡してみると、手紙をよく書くという人は身近にあまりいません。
いまは、コミュニケーションの手段も多種多様です。デバイスが普及し、テクノロジーのハードルもどんどん低くなっています。
私もIT業界で仕事をしてきた身としてそれらの利便性は理解していますし、自身でも活用しています。
それでも、手紙を書きます。大事なひとへ、ビジネスシーンで、ときには自分へ。
作業としては決して効率的とは言えませんが、誰かとつながり生きていくうえで欠かせないコミュニケーション手段です。
面倒くさいとか、字を書くのが苦手だから避けているという人にも、その面白さを知ってほしい。
しかも、単に面白いだけではなく、仕事のスキルにもつながってくることを知ってほしい。
ふと思い立ち、このコーナーを作ろうと決めました。私なりに、手紙のきほんや楽しさをご紹介していきたいと思います。
はじめに〜手紙を書くことの奥深さ
あんまり自分で言うものではないが、私は筆まめな方だ。
いや正確に言うと、まめなのではなく手紙を書く行為そのものが好きなのだ。
読み手を思い浮かべながら、”伝えよう”と便箋やハガキに言葉を紡いでいく。
まず、その過程で心を整理し、考えをまとめることができる。
書く目的によるけれど、感情の言語化は自らを客観視して落ち着かせる力を持っている。
反対に「激情にまかせて心情を吐き出したい!忘れてなるものか!」そんな思いが強い場合は、その瞬間のなまなましい感情を表現することもある。
なんにせよ、手紙には書き手による言葉へのこだわりがあるのが良い。
「伝えたい」
「これで伝わるかしら」
「言いたいことをきちんと理解してもらえるかしら」
そんなことを頭の中で反芻しながら、言葉を選んでいくのだ。
そして手紙というものは、突然、差出人から宛先人へ届けられるけれども、基本的に一方通行ではなく読み手を意識して書かれている。
読み手の近況を尋ね、慮り、そんな中で自分のことを綴っていく。
電話や対面とは異なるコミュニケーションの想像力も必要とされる。筆不精な人の中には、悪筆とか文章を書く習慣がないという理由以外に、これが苦手だという人も少なからずいるだろう。
しかしこれは、友人関係でもビジネスシーンでも、人付き合いの根幹で求められる一般的なスキルでもある。
相手がどう受け止めるか。理解しやすいよう配慮されているか。
日本人が好む「おもてなし」の精神であり、マーケティングの基本的な思考回路ではないだろうか。
読み手がどんな人かを踏まえて、互いの距離を縮めるような話題に触れたり、好みそうな便箋や切手を選んでみたり。
そう、手で触れられる姿になるというのも醍醐味だ。
手紙は、チャットやメールのようにリアルタイムで伝えることには向かないが、その瞬間の気持ちや考えを丁寧に言語化し、リアルな手触りとして届けられるのだ。
このように、読み手を想い言葉や演出にこだわって手紙を書く行為は、奥が深く、楽しいチャレンジだと思っている。
一般的に考えられているほど、手紙は堅苦しいものではない。一種のお作法はあっても、それだけが「正しい手紙」ではない。
自分らしく相手へ伝えようとする表現そのものだから、気軽に書いてみよう。